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世界の鏡である精神科医療を描いた「アダマン号に乗って」ニコラ・フィリベール監督記者会見(2023.04.27)

今年2月に開催された「第73回ベルリン国際映画祭」のコンペティション部門で最高賞の金熊賞を受賞した日仏共同製作ドキュメンタリー「アダマン号に乗って」のニコラ・フィリベール監督が来日し、臨床心理士であり本作のプロジェクト・アドバイザーを務めるリンダ・カリーヌ・ドゥ・ジテール氏と共に記者会見に登壇した。フィリベール監督は「精神科医療については1996年に『すべての些細な事柄』でも取り扱いましたが、今回は3部作の1作目となり、パリの精神科医療について今後も紹介していく予定」と明かした。

パリのセーヌ川に浮かぶ木造建築のユニークなデイケアセンター「アダマン」は、精神疾患のある人々を無料で迎え入れ、絵画、音楽、ダンスなど創造的な活動を通じて社会と再び繋がりを持てるようサポートしている。そこに集う人々の姿を、「ぼくの好きな先生」で知られるフィリベール監督が優しい眼差しで見つめ、ベルリン映画祭では「人間的なものを映画的に深いレベルで表現している」と賞賛された。

フランスでは初日に4万2000人を動員するヒットとなったそうで、監督は「ドキュメンタリーとしては本当に幸先の良いスタートとなりました。精神科医療と聞くと、恐れを抱いてしまったり、ドキュメンタリーということで腰が引けてしまう人もいるかもしれない。そんな二重のハンデを背負いながらも良い興行成績をあげられたことはとてもありがたい」と笑顔を見せた。

ベルリン映画祭での受賞については「コンペティションに選出されただけでもご褒美のようで、まさか最高賞までいただけるとは、ドキュメンタリーというジャンルにとっても幸せなこと」と語り、共同製作として出資した配給元でもあるロングライドの波多野文郎代表は「日本と海外の共同製作が多くないのは、製作スタンスの違いが大きな壁ですが、今回の受賞を経て、日本がより海外作品に出資してコラボレーションする機会が増え、逆に海外の資本で日本の作家を育て、映画界を盛り上げていくことも大切」とコメントした。

何故、精神科医療に関心を持ったのか聞かれると監督は「わからない」と笑いながらも、「とても心の奥底を動かされるし、自分が押し込めているか弱さや傷を照らし出す部分があるからかもしれない。突き詰めれば精神科医療はこの世界の鏡。世の中に対する精神疾患を持つ人々の言動にドキットさせられたり、飾り気もフィルターも無い彼らの明晰な発言を聞いたり、彼らに会ったりすることで、私自身も癒されるのだと思う」と明かした。

また、ドキュメンタリーを撮ることについては「人々との出会いという幸せを享受している。アダマン号という場所もそうだし、観客には出演している人々と出会って、感動を味わってほしいし、彼らのことを知って、自分を知ってほしい」と語った。作品の舞台でもあるアダマン号はセーヌ川上で動いているのか問われると「エンジンが無いから浮いているだけ」と言って笑った。

現在もアダマン号のスタッフとして務めるドゥ・ジテール氏は、撮影後の人々の変化を感じたそうで、「みんなイキイキとしていました。ケアスタッフたちも遣り甲斐を感じて協力してくれましたし、結果的に患者たちにも良い影響を与えています」とし、監督も「多くの患者がどのように撮影されていたか観た時に、一人の主体として扱われていると実感したんじゃないかと思う。精神疾患により不信感を持たれることが多い彼らが、敬意を持って撮ってもらったと感じ、良い気分だったんじゃないかと思う」と述べた。

最後にパリの中心地に浮かぶアダマン号の存在について監督は「船に通う人たちも、船のようにフラフラと浮かぶ存在。水の存在はとても重要で、セーヌ川は日によってその色を変えます。そんな水を見ているだけで、催眠術にかかったような夢見心地になるし、建築物としての美しさも人の気持ちを穏やかにさせてくれるんです」と明かした。

(C) TS Productions, France 3 Cinema, Longride - 2022

公開情報 ロングライド配給「アダマン号に乗って」は2023年4月28日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他公開
公式サイト:https://longride.jp/adaman/

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