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若い頃に作っていたら、全く違うものになっていた。「沈黙 -サイレンス-」マーティン・スコセッシ監督来日記者会見(2017.01.17)

戦後日本文学の金字塔にして世界20ヶ国以上で翻訳され、今も読み継がれている遠藤周作の「沈黙」を映画化した「沈黙 ‐サイレンス‐」でメガホンを撮ったマーティン・スコセッシ監督の来日記者会見が1月16日(月)に行われた。この日はゲストとして、かくれキリシタンの子孫である村上茂則氏が登壇し、「本日は、スコセッシ監督にお会いでき非常に嬉しいです。長崎で当時は40万人いた信者が今は300人しか残っていません。潜んではおりませんが、信仰はそのまま昔の形態で続けております」と挨拶し、スコセッシ監督も感慨深げだった。

スコセッシ監督は、原作と出会ってから28年の歳月を経て、積年の思いでやっと完成させることができたと明かし、「日本の皆さんに、この作品を受け入れてもらうことができて本当に夢が叶いました。原作は日本で読んだのですが、どう作るべきか、どう解釈するべきか、なかなか自分の答えが見つからずにおりました。当時の宗教観や自分の中の疑念、日本の文化に対する理解がそこまでなかったということもあるんですが、この作品と向き合うのは壮大な学びの旅というか、試行錯誤の旅でした。作品は完成しましたが、これで終わりではなく、今も自分の中で共に生きている感じです」と挨拶。

昨年バチカンで上映した際に、ローマ法王が謁見した時の様子を聞かれると、「実際に法王が観て下さったかはわからないですが、法王は相手を緊張させない方で、こちらもリラックスしてお会いすることができました。この映画でも出てきますが、雪のサンタマリアの話や、イエズス協会の神父たちの話などをしました。法王からは『映画で伝えたいことが成果としてあがればいいですね』とお言葉をいただきました」と明かした。

本作は、かくれキリシタンたちの受難を描いているが、彼らからどういったことを学んだのか、また日本の宗教的マイノリティに対して思うことを聞かれると、「日本にいたかくれキリシタンの勇気、信念に感心せざるをえません。先日、ローマでアジア人のイエズス会神父が『彼らになされた様々な拷問は暴力だったが、同じくらい西洋からやってきた宣教師たちも一種の暴力を持ち込んだ。これが普遍的な真実である』とおっしゃりました。つまり、キリスト教を持ち込んだことこそが、侵害で暴力であり、この暴力に対処するには、彼らの傲慢を一つずつ崩していくしかない。キリシタンを弾圧するのではなく、リーダーたちにプレッシャーを与え、上から崩していく方法を見出したのではないか、と話しておられました」とコメント。

さらに、「この映画の中でも踏絵を踏むことで司祭であるロドリゴの傲慢さが崩され、彼の中にあった間違ったキリスト教に対する考えが覆されます。自分の中の信仰心を無にし、仕える者となり、初めて真のクリスチャンになりました。日本のキリシタンはそういうところに惹かれるのだと思います。権威的なアプローチでキリスト教の教えを説くのは、日本においては違うのではないでしょうか。どちらかというと慈悲心を説くなど、キリスト教の女性性をもって説く方が、日本では受け入れられやすいのではないかと思います」と自身の考えを覗かせた。

「もし若い頃に映画化していたら?」と聞かれると、「全然違う作品になったと思います。ようやく脚本を構成して、挑戦してもいいかな?と思ったのは2003年の『ギャング・オブ・ニューヨーク』の時で、当時は私生活でも再婚して、娘ができるなど変化があり、自分の可能性を広げるきっかけになりました」と明かした。政治的にも文化的にも大きなうねりがあるこのタイミングでの公開については、「この作品は人間の弱さや懐疑心を否定するのでなく受け入れることを描いているので、そういう気持ちを抱えている人に伝わればいいと思う」と語った。

1988年には「最後の誘惑」で議論を巻き起こしたが、本作はクリスチャンの間で称賛されているということで、2作品の違いについて聞かれると、「『最後の誘惑』は、キリスト教で謳われる理念やプロセスをシリアスに探求し、議論が起こりましたが、試写会の一つでポール・ムーア大司教に勧められた本が『沈黙』でした。当時、自分は信仰に迷いがあり、その中で『沈黙』を読んでもっと深く探求しなければいけないと学びました。決定的な問いに、ひたすら没入していく作業において、この作品は重要な一つになっていると思います。信ずること、疑うことを描いていますが、疑念とは我々について回るものだし、そういった気持ちが創作意欲をかきたてるのだと思う」と語った。

本作の中でも重要な位置を占めるかくれキリシタンだが、今なお続くその信仰を守り続けているかくれキリシタンの指導者である村上茂則氏は本作を観て「かくれキリシタンが減少している中、自分たちの先祖が酷い目に遭い、弾圧を受ける姿を見るのは心が痛かったですが、世界中の沢山の人に観ていただきたい」と述べると、スコセッシ監督は「この映画は日本の文化、日本にいたキリシタンの勇気を損なうことのないように描いたつもりです。とにかく忠実に、敬意を持って描こうと力の限りを尽くしました。真剣に取り組んだし、一つの通過儀礼的な巡礼なんだという感覚を覚えました」と締めくくった。

公開情報 KADOKAWA配給「沈黙 ?サイレンス-」は1月21日(土)全国公開
公式サイト:http://chinmoku.jp/

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